Timothy C. Shiell, 1998 Campus Hate Speech on Trial

Timothy C. Shiell Campus Hate Speech on Trial(1998)University Press of Kansas

 

※ 同書は第二版が2009年に刊行されている。

※ 以下は「訳」ではなく要約である。

 

■ ヘイトスピーチコードはどうやってできたか。(18-)

 

・1987年1月27日 ミシガン大学で、黒人の女子学生のグループが、すべての黒人を「狩る季節が来た」と主張する手書きのビラの束を学生寮のラウンジで見つけた(そこで黒人は、「受け口」、porch monkey, jigaboosと呼ばれていた)。その後、1987年2月4日、キャンパスラジオのDJがオンエア中に、人種差別的なジョークにリスナーが参加するように促し、また差別的なジョークを語った。これらの事件はキャンパス全体にすぐに広がり、学生グループはヘイトスピーチ反対を表現するために広場に集まった。彼らの怒りは高まった。彼らが集まっている時、そこから見える学生寮の窓に、誰かがKKKのコスチュームを掲げたからである。その後、レイシストジョークを含むコンピューターファイルが発見され、また第二のビラが発見されたことで、大学の緊張はさらに高まっていく。第二のビラには、黒人は「木から吊るされる」べきだという言明が含まれていた。(18)

 大学はこれに対応して、コンピューターファイルを閉じ、二つのビラの事件に責任のある学生を特定し処罰した。ビラは19歳の学生だったが、学生寮からの退出と大学の居住施設への立ち入り禁止処分となり、DJはラジオ局の仕事を解雇された。学長はまた、2月19日に人種的文化的民族的な多様性をもつキャンパスへのコミットメントを再確認し、人種差別行為を非難する声明を出した。(18)

 1987年3月には、大学管理者は一人の米国公民権運動の指導者と会合をもち、キャンパスでの人種差別問題を是正する6点の計画を採用した。そこには、適切な処罰をともなう人種差別ハラスメント反対政策も含まれていた。その後、学長選挙等があり秋まで持ち越されたが、1988年1月15日の会合後に、ハラスメントポリシーの草稿を依頼した。(19)

 ロースクールの教授陣および大学評議会オフィス付きの法律家のコンサルテーションの元、12回の草稿審議を経て、1988年2月に学生新聞にパブリックコメントを求めるために掲載された。3月16日には公聴会が開催され、登壇者はポリシーについてさらに多くの修正を求めた。さらに書き直され、事例に基づく解釈ガイドが付加された。1988年4月14日の大学評議委員会で、ポリシーは満場一致で採用され、1988年3月31日~1989年12月31日まで効力をもつ形で発行した。(19)

 ポリシーは、規制の程度は行為の場面しだいであり、それに応じて言論の三つの「層」を同定した。第一層は、学生新聞の内容はポリシーから除外された。第二層は、大学の「公的」部門であり、これが規制対象になるのは、物理的暴力と私物・物の破壊だけだとされた。第三層は、「教育的および学術的センター、教室、図書館、研究所、レクリエーション室および勉強室」は、次の場合、処罰の対象とされた。

 

1 いかなる振る舞いも、口頭であれ身体的であれ、それがある個人を、人種、民族、宗教、性、性的指向、信条、国籍、先祖、年齢、婚姻状態、障害またはヴェトナム退役軍人であることに基づいて、スティグマ化または虐待するようなものであり、かつ、

 

 a 個人の学業、雇用、大学が保障する追加カリキュラム活動への参加または個人的安全を脅かす表現またはその含意を含んでいるか、または、

 b 個人の学業、雇用状況、大学が保証する追加カリキュラム活動への参加または個人的安全を妨害する目的または効果をもつか、または、

 c 教育研究、雇用または大学が保証する追加的活動への参加を脅かすような、敵対的な、または貶めるような環境を作る場合。

(19-20)

 

この規定には、処罰対象になる行為の事例を提供する解釈ガイドが付されている。以下のようなものが含まれている。

 

・人種差別的脅迫を含むビラを居住空間で撒くこと

・人種差別落書きをアジア人学生が学習する空間のドアに書くこと

・男性が教室で「女性はここでは男性より劣っている(aren't as good as men)」と言うこと

・レズビアンだと思われている学生を除くすべての学生を招待してフロアパーティを開くこと

・黒人学生が食堂で白人学生に人種差別的に貶められること

・男子学生が、女子学生のデスクにポルノ落書きやジョークを書くこと(20-21)

 

また、解釈ガイドは「あなたは、以下の時ハラッサーです」と題されて以下の例が書かれている。

 

・誰かを勉強会から、人種、性または民族的出自を理由に排除する場合

・ゲイ男性やレズビアン女性について冗談を言う場合

・あなたの学生組織が、ヒスパニックを貶す発言者を呼ぶこと

・学生寮の部屋の壁に南部軍旗を掲げること

・教室で、誰かがどもりであることについてのジョークで笑うこと

・猥褻な電話をしたりまたは、人種差別的なメッセージをメールで送ること

・ある人の身体的容姿または性的指向または文化的出自または宗教的信念について、軽蔑的な仕方でコメントすること(21)